普段何気なく使っている食用油。実は、私たちの腸内に住む細菌がこの油を”加工”して、注目される物質に変化していることが分かってきました。
東京理科大学の研究チームが2024年4月30日、国際学術誌「Frontiers in Immunology」で発表した研究で、新たな発見が明らかになりました。
意外な発見:乳酸菌が油を”変身”させる
私たちの腸内に住む「ラクトバチルス・プランタラム」という乳酸菌。この菌が食用油を代謝して作り出す物質の中に、炎症に関連する可能性が研究で示唆されていることがわかりました。研究チームは、この物質を「γKetoC(ガンマケトシー)」と名付けています。
なぜこの発見が重要なの?
腸の炎症に悩む人は少なくありません。研究チームのリーダーである西山千春教授は、「腸内細菌が私たちの健康に有用な物質を産生していることが広く認知されればと思います」とコメントしています。
実験では、炎症性腸疾患のモデルマウスにγKetoCを与えたところ、新たな知見が得られたとのこと。さらに、この効果は体内の「NRF2」という因子を介して働くことも分かりました。
研究から見えてきた新しい可能性
この研究の面白いところは、γKetoCの原料となるγ-リノレン酸自体には、このような効果が見られなかった点です。つまり、腸内細菌の働きによって初めて、この有益な物質が作られるのです。
将来への期待
この発見は、新しい研究の進展につながる可能性があります。研究チームは現在、さまざまな種類の油成分について研究を進めており、新たな有効成分の発見が期待されています。
【参考文献・情報源】
- Frontiers in Immunology(2024年4月30日掲載)
論文タイトル:The gut lactic acid bacteria metabolite, 10-oxo-cis-6, trans-11-octadecadienoic acid, suppresses inflammatory bowel disease in mice by modulating the NRF2 pathway and GPCR-signaling
DOI:10.3389/fimmu.2024.1374425 - 研究チーム:
- 東京理科大学 先進工学部生命システム工学科 西山千春教授(研究代表)
- 京都大学 農学研究科 小川順教授、岸野重信准教授
- 東北大学 東北メディカル・メガバンク機構 山本雅之機構長
- 東京理科大学 薬学部薬学科 市原学教授
- 研究助成:
- 日本学術振興会 科学研究費補助金基盤研究(B)(23H02167, 20H02939)
- 日本免疫学会「きぼう」プロジェクト
- 東京理科大学学長研究推進助成
その他複数の研究助成を受けて実施
この研究は、毎日の食事が私たちの健康に与える影響の大きさを、科学的に証明した重要な成果といえます。今後の研究の進展が期待されます。