私たちの体は、暦年齢とは異なるスピードで老化していることをご存知でしょうか。最新の研究では、この「生物学的な老化の速度」を測定することが可能になってきています。今回は、加齢の進行速度(Pace of Aging: PoA)に関する最新の研究成果をご紹介します。
ダニーデン研究から見えてきた加齢の個人差
ニュージーランドで1972-1973年に生まれた方々を追跡したダニーデン研究では、驚くべき発見がありました。研究者たちは、心臓血管系、代謝系、腎臓、肝臓、免疫系、歯科、肺機能など、19の生体指標を26歳から45歳まで定期的に測定しました。
その結果、同じ暦年齢でも、生物学的な老化の速度には大きな個人差があることが判明したのです。最も遅い人では1年の暦年齢に対して0.40年の生物学的な老化しか進まない一方、最も速い人では2.44年もの生物学的な老化が進んでいました。
加齢の進行速度が教えてくれること
では、このような加齢の進行速度の違いは、実際の健康状態とどのように関連しているのでしょうか。研究では以下のような興味深い関連性が明らかになっています。
- 身体機能の低下:加齢の進行が速い人ほど、体力や運動能力の低下が顕著でした
- 認知機能の衰え:記憶力や思考力といった脳の働きも、加齢の進行速度と密接に関連していました
- 外見的な老化:顔写真による年齢推定でも、加齢の進行が速い人ほど実年齢より年上に見られる傾向がありました
- 主観的健康感:自己申告による健康状態も、加齢の進行速度を反映していました
DunedinPACE:DNAから老化を測る
これらの研究成果を基に、研究者たちは DNA メチル化という指標を用いた新しい老化マーカー「DunedinPACE」を開発しました。このマーカーは以下のような特徴を持っています。
- 高い信頼性を持ち、病気や障害、死亡リスクと強い関連を示しました
- 幼少期の逆境体験がある若年成人で加齢の進行が速いことが分かりました
- イギリスの大規模研究では、年齢が上がるにつれて加齢の進行も速くなる傾向が確認されました
子どもの発達と社会環境の影響
さらに興味深いことに、子どもや青年期における研究でも重要な発見がありました。
- 社会経済的地位が低い家庭の子どもほど、加齢の進行が速い傾向にありました
- 認知能力の発達も、加齢の進行速度と関連していることが分かりました
一方で、希望を見出せる研究結果も出ています。フラミンガム心臓研究では、教育水準が上がることで加齢の進行が遅くなり、死亡リスクも低下することが示されました。
加齢の進行速度は変えられるか
最も注目すべき点は、加齢の進行速度が固定されたものではないという事実です。カロリー制限による介入研究では、生物学的な老化のスピードを調整できる可能性が示唆されています。
このような研究の進展は、私たちに新しい可能性を示してくれています。加齢の進行速度を理解し、適切な介入を行うことで、より健康的な老いの過程を実現できるかもしれないのです。
健康長寿を目指す上で、この分野の研究はますます重要になってくることでしょう。
参考文献