私たちは季節が変わると、半袖から長袖へ、そしてコートへと洋服を「衣替え」します。
「暑いから」「寒いから」という理由で無意識に行っていることですが、実は私たちの体の内側、「遺伝子」のレベルでも、同じように季節に合わせた衣替えが行われていることをご存知でしょうか?
「季節の変わり目は体調を崩しやすい」
「冬になると古傷が痛む」
これらは単なる気のせいではなく、私たちの体が季節の変化に対応しようと奮闘している証拠かもしれません。
今回は、2023年に発表された最新の研究をもとに、ヒトの遺伝子に刻まれた「季節のリズム」と、冬の免疫システムの不思議について解説します。
最新研究:ヒトの体には「季節」がある
2023年2月、生物学の専門誌『PLOS Biology』に興味深い研究結果が発表されました。
これまでの医学研究では、1日の中のリズム(昼と夜)については詳しく研究されてきましたが、「1年を通した季節のリズム」が人体にどう影響するかは、まだ多くの謎が残されていました。
46種類の組織・1000人近くを調査した大規模研究
研究チームは、約1000人のドナーから提供された、脳、心臓、肺、血液など46種類の組織データを解析しました。
その結果、体内の多くの遺伝子が、季節によって発現量(働きの強さ)を変化させていることが判明したのです。
例えば、脳の中にある特定の遺伝子は夏と冬で働き方が違っていたり、ホルモンに関わる遺伝子が季節によって変動していたりしました。私たちはエアコンの効いた部屋で快適に過ごしていても、体内の細胞はカレンダーを見ているかのように、季節の変化を感じ取っていたのです。
冬の体は「戦闘モード」になっている?
では、これからの季節、私たちの体はどのように変化するのでしょうか?
研究によると、冬の体はウイルスなどの外敵から身を守るための「戦闘モード(防御モード)」にシフトしている可能性が高いのです。
ウイルスに対抗するための免疫シフト
解析の結果、血液中の免疫細胞に関連する遺伝子の多くは、冬になるとその活動を高める傾向(季節性)があることがわかりました。
冬はインフルエンザなどのウイルスが蔓延しやすい季節です。人類が長い歴史の中で生き残るために、「冬は感染症のリスクが高いから、あらかじめ免疫のガードを上げておこう」と遺伝子レベルでプログラムされていると考えられます。
一方で高まる「炎症」のリスク
「免疫が高まるなら良いことでは?」と思われるかもしれませんが、これにはトレードオフ(代償)もあります。
免疫細胞が活性化するということは、体内で「炎症反応」が起きやすくなることでもあります。
冬になると心筋梗塞や脳卒中などの心血管系のトラブルが増えたり、関節リウマチなどの痛みが悪化したりするのは、寒さによる血管収縮だけでなく、この「免疫システムの季節変動(炎症傾向)」が関係している可能性が示唆されています。
遺伝子のリズムに合わせて健康に過ごすコツ
私たちの体(遺伝子)が季節によって変化している以上、私たち自身の行動もそれに合わせるのが自然です。
最新研究から見えてくる、冬の過ごし方のヒントをご紹介します。
1. 無理に「夏と同じ生活」をしない
冬の体は、ウイルスと戦うためにエネルギーを使っている「防御モード」です。
夏と同じように活動的に動き回ったり、睡眠時間を削ったりすることは、体に過度な負担をかける可能性があります。
「冬は日が短くなる」という自然の摂理に従い、夜は早めに休むなど、体を労る意識を持つことが、遺伝子のリズムに逆らわない健康法と言えます。
2. 体内時計(サーカディアンリズム)を整える
遺伝子の季節変動は、日照時間(光)と密接に関係していると考えられています。
冬は日照時間が短くなるため、意識的に朝の光を浴びることが重要です。朝の光は体内時計をリセットし、季節に合わせた適切な遺伝子の働きをサポートしてくれます。
まとめ
- 私たちは服を着替えるように、遺伝子レベルで体を「衣替え」させている。
- 冬の体はウイルス対策のために「免疫(炎症)モード」になりやすい。
- 季節の変化に逆らわず、冬は体を休めることを優先しよう。
「季節の変わり目の不調」は、体が新しい季節に適応しようと頑張っているサインかもしれません。
ご自身の体の声を聴きながら、無理のないペースで冬を乗り切っていきましょう。
参考文献
- Wucher, V., et al. (2023). Day-night and seasonal variation of human gene expression across tissues. PLOS Biology.