ぬか漬けから見つかった乳酸菌を、東京大学などの研究グループが調べています。その菌株がLactobacillus paraplantarum この菌株です。
「ヨーグルトより強い」「自然免疫を活性化する」と紹介されることもありますが、その元になったのはどんな実験なのでしょうか。この記事では2017年の原著に沿って、発見の背景と、結果から分かる範囲を紹介します。
ぬか漬けから、研究対象となる菌を探す
乳酸菌は、乳製品だけでなく漬物などの発酵にも関わっています。研究チームはぬか漬けやキムチから菌を分離し、カイコの自然免疫に関わる反応を測定しました。その中から高い活性を示す菌としてこの菌株を選んでいます。
論文の著者には東京大学大学院薬学系研究科、帝京大学、企業の研究機関の所属が記載されています。「東大が研究に関わった」という背景は確認できますが、大学が一般向け製品の効果を保証したという意味ではありません。
なぜカイコを使ったのか
カイコは自然免疫を調べるための実験モデルです。この研究では、自然免疫に関わる反応に伴って筋肉が収縮する性質を使い、菌の活性を比べています。
大切なのは、筋肉の収縮という決められた実験条件での反応を測っていることです。人の免疫全体を数値化した検査でも、飲んだ人が何回風邪をひいたかを比べた試験でもありません。
「免疫活性が高い」は、何と比べた結果?
この菌株は、研究で比較した菌の中で高い筋収縮活性を示しました。また、この菌株を含む餌を与えたカイコでは、緑膿菌感染後の生存が改善しました。
この結果は、この菌株の性質を知るための基礎研究として意味があります。一方、「すべてのヨーグルトより人の健康に良い」「人の感染症を防ぐ力が何倍」という比較へ広げることはできません。比較した菌、測定方法、対象となった生物が違うためです。
加熱した菌体でも反応するということ
筋収縮の測定には、加熱処理した菌の試料が使われています。「生きた菌でなければ何の反応もない」とは限らないことを示す実験です。
ただし、試料をカイコの筋標本に注入する実験と、人が食品を食べる場面は異なります。家庭で加熱しても同じ健康効果が保たれる、という結論はこの測定だけでは出せません。
「ぬか床で育ったから強い」と言い切れる?
由来する食品だけで、乳酸菌の性質や健康効果を決めることはできません。菌株ごとに性質が異なり、同じぬか漬け由来でも実験の結果は一様ではありませんでした。
ぬか床という環境だけから、菌の細胞壁の性質や、人の健康への作用を決めることはできません。菌の特徴を知るには、その菌を使った実験の条件と結果を確認する必要があります。
まとめ:この菌株の研究を、その対象に沿って読む
- この菌株はぬか漬け由来の乳酸菌で、東京大学などの研究者が参加した原著があります。
- 確認されたのは、カイコを使った自然免疫に関わる反応や感染後の生存です。
- 市販のヨーグルト全般との優劣や、人の疾病予防を示した試験ではありません。
身近な発酵食品から新しい研究対象が見つかることは興味深い点です。菌の由来、実験で使われた試料、販売されている製品を区別すると、研究の意味を理解しやすくなります。
ぬか床から分離する、という研究の進め方
ぬか床には一種類の菌だけが存在するわけではありません。研究で特定の菌を調べるには、混ざった状態から菌を分け、性質を比較できる形にする必要があります。「ぬか床由来」という説明は出発点を示しますが、家庭のぬか床に同じ菌が同じ量で存在することまでは意味しません。
菌株を区別する名称は、研究対象を他の株と区別するために重要です。同じ種に分類される菌でも、株が違えば性質が同じとは限りません。食品の由来を知ることと、実験で使った対象を特定することは、どちらも必要な情報です。
研究の価値は、人への効果の有無だけでは決まらない
カイコの実験は、自然免疫に関わる反応を調べ、候補となる菌を比較するための研究です。人での効果を直接示していなくても、どの菌にどんな特徴があるかを明らかにする意味があります。基礎研究の結果を正しく読むことは、その成果を低く評価することではありません。
次の段階で確かめたい問いは、使う形や量を変えても反応が再現するか、人ではどの評価項目を調べるか、安全性をどう確認するかなどです。発見から実用までの間には複数の問いがあります。その距離を示すことで、研究の面白さと、今言えることの範囲を両方伝えられます。
参考文献:Nishidaら(2017)Lactobacillus paraplantarum この菌株のカイコ感染モデル研究 / 原著全文(Frontiers in Microbiology)
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